BG、あるいは死せるカイニス

 ミステリには珍しい、異世界物だ。だが、正直な所、出来が良いとは言えない。ミステリで有るが故に、SF以上に詳細で矛盾の無い完成された世界観の設定が必要なのだが、SFと比較すると、その世界観の設定は余りにも稚拙としか言いようがない。そして、ミステリで有るが故に、これは問題だ。
 試しに、[ ようこそ女たちの王国へ ]と読み比べて見ると良い。同じように男女の人口比が女性に偏っている社会を題材としてるが、その世界観の設定は、非常に完成度が高く、しいて、問題を上げるのなら、精子の遺伝子の比率が偏っている事の理由が記載されていない点くらいだろうか。しかし、それは、この小説では、何ら問題ない。
 さて、本作だが、女性から男性へと変化するという、まさに肝心な部分の設定が、ハッキリ言って、大変不味い。確かに、雌から雄に変化する生き物は存在するが、下等生物限定で、人間のような複雑で長命な生き物では有り得ない。さらに、その変化が、第二次成長期ではなく、それを遥かにスギ、出産を経験した後、つまり女性として完成した後というのは、いただけない。こんな設定では、SFの読者なら到底納得できない。それとも、ミステリの読者は納得出来るのだろうか( *1 )。いづれにしろ、著者は、生物学に詳しい方へ、一度は相談するべきだったろう。ちなみに、異世界物のミステリとしては、久住 四季氏の[ トリックスターズ ]が有るが、ライトノベルとは言え、むしろ、世界観の設定では、こちらの方が遥かに完成度が高い。
 さて、何故、問題なのかと言えば、この設定そのものがミスリードする要素が有るからだ。これだけ過激な変化が有るとすれば、発ガン性が高いハズで有り、一歩譲って、変化しなかった女性はいいとしても、男性は極端に短命なハズ。なので、癌又は、何らかの遺伝子に起因する病気が存在するハズで、それが関係しているのではないかと、暫く思っていたからだ。
 ついでに記載すると、社会描写も酷い。男女の人口構成比が極端に違うにも関わらず、ほぼ、我々の世界の延長線上で描かれており、非常に違和感が有る。所が、後書きでは、手放しのベタ褒めだ... 。

*1:萩尾望都氏の[ 11人いる! ]に同様な種族が2つも登場するが、いずれも、思春期相当の変化であるし、変化前は、女性というよりは中性に近い。又、脳、つまり思考の変化については記載されていないが、経験による変化は別として、変態による変化はなさそうな雰囲気だ。これに対し、本作では、ガラリと変わるし、脳自体が変化すると明確に記載されているが、義務教育レベルの知識が有れば、有り得ない事は理解出来るハズ。